“ごめんね、仕事が長引いちゃって今終わった。10分位遅れるかも”



(10分って…このメール自体15分位前に届いてんじゃん…)


俺がそんな事を考えてる間に、ビアガーデンの階段を急いで上って来る彼女が俺の視界に入って来た。



息を切らせながら謝る彼女。


『ハァ…ハァ…ご、ごめん…待った?』


(そんなに一生懸命走らなくても…)っと思い、咄嗟に俺の口から出た言葉は“在り来りな嘘”だった。


『いや、ぶっちゃけ、実は俺も10分遅れてさぁ〜。』

『今さっき着いたばっかなんだよ。』


『だからお互い様だな』

『なんだそうだったのかぁ、なら善かった』


安心した表情を見せる彼女。


そしてリンも俺の前の椅子に座り、手を挙げながら、ビアガーデンの店員を呼ぶ。


『すみませ〜ん。』



ホールを見ていた店員がリンの声に気付き、リンの横に来た。


『ハイ。お待たせしました。』


『生下さい』


リンがそう言うと、受け答える店員。


『ハイ。生ビールですね。』


『サイズの方は“いつもの”で宜しいですか?』


『はい。お願いします。』


このビアガーデンの生ビールのジョッキの値段は、520円。


この“520円”には俺とリンとの間にちょっとした“秘密の約束”が隠されている。



だが“敢えて”この話しでは言わないでおこう