『好きな人ができた』

「は?」

『好きな人ができた』

親切に二回も言ってくれる親友2人。

ちゃんと聞こえてるって。

OK。ここで少し冷静になろう。

今、2人はなんと言った?

できた? なにが?

え? 好きな人?

だれに? 私?

はは。面白いジョークだ。

「なにそれ? 初対面で好きになるわけないでしょ?」

私は若干怒り気味に言った。

そんな風に変な勘ぐりをされるのは腹がたつ。

だが、2人はそうは受け取らなかった。

『やっぱり』

声を揃えて私にじとーっとした視線を向けてきた。

私の不快感が最高潮に達する。

「もう、何がやっぱりなの! はっきりしてよ!」

私の剣幕に2人は顔を見合せ、お互いにボディランゲージで、どうぞどうぞと譲り合う。

待たされる側は非常に苛つく光景だ。


「えっと……」

口を開いたのは詠美だった。

なんらかの意志疎通があったのだろう。詠美は軽く茜を睨んで、やれやれと言いたそうに首をすくめる。

「いつもなら、梨花さん、こう言ってるはずですよ」

「こう、というと?」

そこで詠美はもう一度茜を見る。

茜もあごで促した。

今のは私でも分かる。こういう感じだ。

――本当に言うの?

――Let's Go!

こんな所だろう。

勝手に自分のことが、私自身の預かり知らない場所で理解されるのは納得がいかない。

とんちんかんなことを言ったら、全力で抗議してやる!

そう思いながら詠美の言葉を待つ。

もっとも、詠美が私に言ったことは、そんな怒りを消し飛ばして余りあるものだった。

「〈私、別に恋愛する予定ないし〉、ですよね?」

「へ?」

それは恋愛ネタを流すときに私が使う常套句だ。

「今回、なんて言いました?」

……なんだったっけ?

………………思い出したぁああああああああああああああああ!