「ちょっと……」

世界が揺れる感覚。

「ちょっと!」

感覚が強くなる。

地震とは違う揺れが私を襲い、脳をシェイクされた。

「いい加減――」

揺れが収まる。

「起きろ!」

「痛っ!」

殴られた。

頭が痛い……。

私は周囲を見回す。

そこは映画館だった。

「やっと起きたわね……ったく」

隣の席に呆れ顔の少女。

その顔を見て、やっと現実を認識した。

反対隣を見ると、やはりそこには見知った顔がある。

今日はこの3人で映画を見に来たのだ。

……どうも眠っていたらしいが。

「梨花さん、涎……」

こっそりと、私を殴らなかった方の友達が教えてくれた。

私は慌てて口元を拭う。

どうやらいろいろ危なかったらしい。

「何で始まった直後に寝るかなぁ」

「ごめん……」

呆れた風に殴った方が言う。

私は素直に頭を下げた。

今日は誘ってくれたのは彼女なのだ。

それなのにいきなり隣で爆睡されたら、私でも文句の1つ言いたくなる。

「まぁ、手に持ったポップコーンを落とさなかったことは褒めてあげる」

そうだった。三人のうちでセンターに座った私がポップコーンを持っていたのだ。

全員が取りやすいようにという配慮だったが、今回は一歩間違えれば大惨事になるところだった。

私は胸を撫で下ろす。

同時に、手の中になにもないことに気付いた。

「あ、ポップコーンはここですよ」

私を殴らなかった方の手に握られていた。

すでに空になっている。

「食べ終わったので回収しておきました」

理解。

完全に状況を把握した私は、二人に謝罪する。

「ごめん!」

二人ともため息をついた。