無力だった。





テレビ番組の早押しクイズのような速さで受話器を置いた。

慌てて置いた受話器は、ボクの心のように、ガタガタ音をたてていた。


男の声だった。父親?
違う意味でドキドキしていた。

初めて万引きをした中2の初夏のように罪悪感だけがボクを、まだ、追いかけ続ける。
布団に丸まり、運命に負けたと思った。


しかし、今思えば、当時、着信履歴なんて物が無くて良かったと思う。もし、あったら、考えただけでゾッとする。



どれくらいたっただろう・・

気持ちが少しづつ落ち着いてきた。

もう、ボクの中の罪悪感と妄想の彼女の父親は追いかけて来なかった。
ラジオを乱暴に消して眠りについた。






「おはようございます!」


「おはよう」


翌日、何事も無く、幸せの朝のひとときは訪れた。


時刻8時前後。


もう待ち伏せも慣れたものである。

彼女は学校に遅刻するような女の子ではない。定時ぴったりにこの道に姿を見せてくれる。









「すみません!!」


ボクは突然、挨拶以外の言葉を彼女に向けて発した。


さすがに驚いたのだろう。彼女は急ブレーキをかけて、キョトンした瞳でこちらを振り返る。



「あの、友達として、今度、電話してもいいですか?」



今思えば、突然、その質問をされて、彼女の性格上、嫌とは言えなかったのだろう。


「いいよ」

と答えてくれた。


鵜呑みにしたボクは嬉しさを隠しきれずに

「ありがとうございます!!」

と言いながら、隙を与えぬように少しその場を離れて、こう続けた。


「今週の土曜日に電話します、じゃあ!!」


彼女を毎回見送るボクが今日に限っては、彼女に見送られながら、その道を立ち去った。


彼女からボクが見えなくなった。



心の中で「勝った!勝った!」と叫び続けた。

ボクは運命に勝った!逆らってやった!