酒の席も中盤、皆が気分良く酔ったのを見計らい、僕はそっと庭に出た。




草履を履いて外に出ると、冷えた夜の空気が肌に染み込んできた。

息の白さに、冬である事を痛感する。


浴衣に羽織り一枚では、やはり寒かった。

微かに震える身体へのせめてもの慰めに、両腕を浴衣の袂(たもと)に入れる。



空は深い藍色に包まれていた。

小さな星が散らばる様は、まるで深海の底に光る真珠。

その海の中、ぽかりと浮かぶ丸い月。


あの形は、明日が満月だな。

そう、予感した。




庭を見渡し、静かである事を確認すると、僕は庭の隅に在る椿へと近付く。


月の光で、細い影を地面に伸ばす椿。

それに重なる、小さな影…。



目を凝らし、見つめた。



佇む椿の木、その隣に寄り添う様に立っていたのは…。





「舞ちゃん?」


呼び掛けに、影が動いた。

振り向いた小さな顔、月光に照らされた不安そうな表情。




「やっぱり舞ちゃんだ。こんな寒い時間に外に出たら風邪をひいてしまうよ」


歩み寄る僕を警戒する様に、瞳を細める舞ちゃん。

両腕を広げ、椿を守る様に立ち塞がり、僕を睨む。