「…叔父上」

軽いノック音と共に、キアランは病床に伏す叔父のもとを訪れた。

知純と一悶着起こした朝食の時間から、まだ一時間と経っていない。


扉を開くと、そこから数メートル向こうに置かれたキングサイズのベッドと、様々な医療機械。
馴染みの医師と看護師が、キアランの姿を認めて小さく会釈した。

穏やかで柔らかな空気が漂う、陽射しの柔らかな方角に位置するこの部屋は、以前なら空気は澱み、視界はくすんでいたのだが。


「…キアラン」

分厚いクッションをいくつか支えにしてベッドで身体を起こしていたアランがゆるりと笑みを浮かべた。

未だ点滴に繋がれ、その顔には憔悴の色が濃い。
しかしその朝靄に霞むような海色の瞳は、目覚める前の澱みを無くしていた。


「…お加減はいかかですか?」

ベッド脇に置かれたソファに腰掛けると、アランの顔を覗き込みながら問い掛ける。
柔らかな光を帯びた懐かしい瞳が、ゆらりとキアランを映し出す。


「…だいぶ良いよ。心配かけたね」

掠れた声だとて、それはどこか安穏を滲ませていた。

それはやはり、「知純」の効果なのだろうか―――。