ヒースロー空港に着くと、智純はキアランとは別行動をすることになった。

ロビーに降りれば、途端日本のマスコミより遠慮のないパパラッチ達がキアランを狙って群れ出すからである。

見目麗しく柔和で優秀。
しかもイギリスで最も成功した貴族、しかも独身とあれば世の女性が黙ってはいまい。

そうなるとパパラッチの需要も必然的に増え、キアランは獲物になる。




「…トンビにあつあげ」


私服に着替えたエスピーひとりに連れられ、キアランに群がる人という人の群れをぼんやりと眺めていた。

意味不明の言葉は、恐怖の飛行機から抜け出せたことによる脳の緩みからだろう。

人混みを作るキアラン達から視線を逸らし、智純は国籍様々な人々が入り乱れるロビーを見渡した。

観光、ガイド、仕事、地元の人間や、里帰り…それこそ用途は様々なのだろうが、母親の昔の恋人に会いに、わざわざイギリスを訪れた人間は自分以外に居るだろうか。


(これだけ入り乱れてりゃ、他に居ても不思議じゃないけど…)


考えて、無駄に喉が渇いた。

機内を出る際、ジンに買ってもらったミネラルウォーターを無言で煽る。