「成田からヒースロー空港まで十二時間ですね。チフミさんは飛行機は初めてですか?」
にこにこと笑みを向けるジンに、智純はふ、と肩の力を抜いた。
事、女の扱いに掛けてはジンのほうが上手だ。
ただ、未だに「チスミ」をきちんと発音出来ていない。
それに関しては、智純は気にならないらしい。
ジンの柔らかな問い掛けに素直に頷いた。
「…はい、初めてです」
おや、とキアランは片耳をそばだてながら思う。
キアラン以外と話をしている智純をこうして傍で見るのは恐らく初めてだ。
キアランに対する態度とは違い、きちんと言葉遣いを直している――いや、同い年なので敬語をどうこう五月蝿く言うつもりもないし、なにより自国は日本ほど敬語だとか丁寧語だとかの境界線は低いのだが。
礼儀は弁えられる人間なのだ、彼女は。
(―――当たり前か。彼女は大人だ)
背も低く、鼻ぺちゃで化粧っ気もないせいか、幼く見える容姿のせいでなかなかどうもこどもっぽく見えてしまう。
もしかしたら年下のイトコよりも幼く見える傾向があるのだ。


