キアランは暫し目を見張った。
正午のフライトに向けて、一旦東京へと向かう車のなかで智純の表情は随分と明るかったからだ。
別れ際、子供達にほだされ、涙を浮かべる老夫婦につられ泣き出した智純の目尻には、確かに赤く腫れたあとがあるのに。
九年暮らした「こころの家」を離れ、海を渡る。
その寂しさからか、智純はぼんやりと窓の外を流れる景色に身を任せていたが。
表情は、晴れやかだった。
智純は、昨日の智純とは違うような気がしてならない。
「…東京に着いたら、先に昼食をとりましょう。機内食は、キアランの口には合いませんし」
ジンの言葉はキアランではなく智純へと向いていた。
優秀な秘書は、キアラン同様、智純の変化を感じとり気さくに話し掛けている。
そんなジンに、智純はふうんと小さく頷き返した。
以前の毛を逆立てた智純からは想像もできない。
「…イギリスまで、どれぐらい掛かるの」
赤く目を腫らした智純に真正面から見つめられ、ジンはその目尻を緩めた。
反するキアランは、この女好きめ、と視線を鋭くする。


