「き…りゆう…くん…?」


困惑する彼女の声が俺の耳元で聞こえる。
無理もない。つーか大体、俺、勢いに任せて何やってんだよ…。
でも…離したくないんだから仕方がない。


「…ごめん。
嫌なら突き飛ばして。」

「…そんな言い方…ずるい…。」


その後に、『嫌なはず…ないじゃない。』って呟く彼女の声が聞こえて、俺はますます腕に力を込めた。
ゆっくりと背中に回った雨音の腕が優しくて、温かくて。
俺の心臓は爆発寸前っていうくらいにうるさく鳴っていた。


「…ジンクス、本当かも。」

「え?」


俺と雨音はゆっくりと距離を取った。
それでもおでこが丁度ぶつかるくらいの、本当にわずかな距離。


「今、幸せだから。」

「…っ…。」

「あ…照れてる?」

「だって霧夕くんが…っ…。」

「あのさ…1個、お願いしてもいい?」

「お願い?」

「名前。
名前で呼んでくれないかな?」