*紗衣side*


あの日からずっと、雨は私を寂しくさせた。
あの日のまま、止まってしまった私はきっともう二度と『恋なんてできない』と、本気でそう思っていた…。


なのに…雨の後に見える虹を隣で一緒に見てくれる優しい人がいることが、どうしようもなく幸せで、なんだか自然と素直に笑えるくらいまで心が安らいでいた。
…こんなに安らかな気持ちになったのは、前に『彼』と一緒にいたときだな…なんて思う。
彼が世界からいなくなってしまったあの日から、私の世界も終わっていたの。


もう笑いたくない、笑えない。
なにもいらない、こんな気持ちを味わうくらいなら。
だからずっと…大切な人はもういらない。
…一人でいい。誰も触れないで。私の傷にも、私自身にも。
そう固く閉ざしてきたはずなのに…


彼は私の殻を無理矢理壊すわけでもなく、こじ開けるわけでもなく…ただ、そのままの私にそっと寄り添ってくれた。
私が触れないでほしいと思っていることを察しながら、それでも…
『知りたい』と言ってくれた。
楽しい話じゃないのを何となく感じてたはずだし、普通なら面倒臭いだけの人間…なのに。





「ありがとう…霧夕くん。」

「え?」

「…もう、閉じこもるのはやめるから。」

「…そっか。」