「見すぎ。」

「んなことねぇよ。」

「お前に雨音?…高嶺の花すぎんだろ。普通に考えろよ?」

「…そういうんじゃない。」


そういうんじゃない。
ただ、気になるだけだ。

あの日の彼女は間違いなく
『泣いていた』から。

雨に隠れて
『泣いていた』から。

あの日から彼女の笑顔を見た人はどれだけいるんだろう…?
少なくとも、学校で彼女の笑顔を見た人間はいないはずだ。
彼女はもう笑顔を忘れてしまったかのように、笑わない。
笑わないどころの話じゃない。
彼女からは一切の表情が消え去っている。

彼女が1年の時には…それでも笑顔があったように思う。
時々、零すように微笑んでいた。

クラスは違っていたし、俺の方も特に気にしていなかったからあまり覚えてないけれど。
それでも、今の彼女とは明らかに違うオーラを纏っていた。

人気があったのは最初からだったけれど、今のように近寄りがたい冷たさを放つようになったのは…
やはり1年前のあの頃だと思う。


「大翔、お前には無理だ。」

「何が?」

「落とすこと。」

「んなもん知ってる。」



霧夕大翔(キリユウヒロト)それが俺の名前。
ユウに指摘されなくても分かってる。
雨音紗衣は、容姿普通成績普通で何の取り柄もない超凡人の俺には、話し掛けることすら躊躇するような相手だということも。