*紗衣side*


泣かずにいられた自分を褒めてあげたい。そんな気分だった。
でも涙腺もかなり限界で、私はもう霧夕くんの方を振り向けないでいる。


なんで言葉にしてしまったんだろう。
それも、あんなに簡単に。
今までずっと口にしないで、留めておいたのに。
口にしてしまえば、もうそれは思い出になってしまう。
戻れない『過去』を増やしてしまう。
それが嫌だったのに。だから言葉にしなかったのに。


私はぐっと下唇を噛んだ。
そして強く両手をそれぞれ握った。
せめて私が零し掛けている記憶を留めておかなくては…。
そんな願いを込めて。





「あ…雨音。」

「…?」


少しだけ振り返った。
涙は必死で堪える。














「…晴れた日に…話したいことがある。」