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高校生としては最後の梅雨の時期がやってきた。
基本的に雨は嫌いだ。
湿気に弱くて頭痛が酷いということもあるけど、それよりも何よりも…
俺に『彼女』を思い出させるから。



「はよー…大翔(ヒロト)。」

「あ、おはよ、ユウ。」

「今日も頭痛?」

「…違う。」

「じゃあまた…『雨音』(アマネ)?」


その問いに俺は答えられないでいる。
目で追っているのは確かなことなのに。


「あ、雨音だ。」


ユウの指摘に自然と彼女に向かう俺の視線。
いや、俺だけじゃない。
雨音の冷たい美しさにはどうしても目がいってしまうんだ。


…彼女の名前は雨音紗衣(アマネサエ)。
学校一のクールビューティーとして名が高い。
でも別名は『アイスプリンセス』。
誰がそう呼び始めたのかは知らないけれど、その呼び名は確実に全校生徒が知っている。
特別に親しい友人もいなければ、彼氏がいるわけでもない。(彼氏云々に関しては憶測だけど。でも校内に彼氏らしき人がいないのは確かだ。)

…彼女の放つ冷たいオーラは、人を寄せ付けつつ拒んでいる。
『近付かないで』と。