ゆっくりと声がした方に顔をむける。
「…颯?」
声だけで誰かわかった私は、戸惑いもなくその名前を口にした。
「よっ!……さっきぶり。」
ニッと笑い軽く手をあげた颯に、私は壁から離れて近くに寄った。
「どうしたの?あ!翔先生に用?今さっき、教務室に戻っちゃったよー?呼んで「唯璃。」
颯が私の言葉を遮って、名前を呼んだ。
その表情は真剣で、少し怒っているようだった。
「…なーに?」
そんな颯に不安を覚えつつも、用件を尋ねた。
なんだろう…。
なぜか、嫌な予感がする。
「…なぁ。お前…、なんで陸上をやめたんだよ?」
「っ!!」
自分の体が強ばるのがわかった。
「な、んでって…?颯は知ってるでしょ…!私は「知らねぇ。」
私の言葉を遮った颯は、
────とても、怖かった。
「俺は知らねぇよ。本当の理由なんて、聞いてない。」
そう言って、颯は私に一歩ずつ近づいてきた。
「本当の…、理由?」
颯の言っている意味が分からず、聞き返した。
…本当の理由?
陸上…、の………っ!!
はっと顔を上げて颯を見上げる。
「聞いてたの…っ?!」
…聞かれてた。
さっきの翔先生との会話を。