:宮比side


「ぁ…、ごめんね?」


瞼を開けた唯璃は、何かに諦めている表情だった。




「唯璃…。」

そんな唯璃を見たくなくて、もう一度名前を呼んだ。


「ごめんね、あんまり髪がキレイだったから…。
あ、治療ありがと!!じゃあ…。」



そう言って、立ち上がった唯璃は






泣きそうな顔で笑っていたから。




そのまま、どこかにいなくなってしまいそうだったから。









離したくない。


……そう思った。


「唯璃。」


名前を呼び、立ち上がってその細い腕を掴んで抱きしめた。



「っ、も、望月?!」


唯璃が驚いた声をだしたけど、無視した。










「…俺は、すごくない。」


「…え?」

不思議そうに見上げた唯璃と目が合った。







…だって、

俺は何もできてない。


「唯璃に…。苦しそうな唯璃に。
 俺は、何もできてない。」



ただ、ただ無力なんだ。





何かに苦しんでいるのは分かる。


でも、俺はその“何か”を


知らないから。




「苦しんでいる何かを今、俺は、唯璃に聞かない。
だって…、聞かれたくないこと…だろ?」



そう問い掛けると、唯璃は目を見開いた。



「言えないことを無理やり聞こうだなんて思ってない。」




でも……、

『今は』だ。



今はまだ、聞かない。