「その日記が書かれてた頃からね
蒼空の態度が明らかに違ってたの


いつも昼過ぎになるとそわそわし始めて
どこかにこっそり行ってしまう

私気になってね、こっそり蒼空の後を
着いて行ってみたの


そこに答えがあった」


梨華さんはハンカチで流れていた涙をふき取り
水で口を潤してから言った


「小さな女の子がいた

ピアノを弾いている女の子が」


ドキン


真っ直ぐとあたしを捉える梨華さんの目


蘇ってくる記憶


忘れていた、カギをかけていた記憶


「蒼空より小さな女の子がピアノを弾く傍で
ぽけーっとしてそれを聞く蒼空

そして演奏が終わると今まで見たことないような笑顔で
その女の子と話していた」


『ねえ、もっと聞かせてよ!』


曖昧になってしまっていた記憶


その記憶に色が、つき始めた


「きっとそのメロディーは凍り付いていた
蒼空の心をも溶かす音色だったんでしょうね


ある日その少女は遠くに行ってしまったみたいで
また蒼空は闇に包まれてしまったけど…」


梨華さんは、一度目を反らして再びあたしの目を見ると


一呼吸置いて、優しく告げた


「あなたに会って、すぐに分かったわ

絢音ちゃん、あなたが初めて蒼空の心を溶かした
あの、少女でしょう?」


その言葉は


疑問が、確信に変わった合図だった