「よく…行かれるんですか?この…貴族街に」
「そうだよ。庶民にとちゃ憧れの地さ。素敵な建造物やセレブさん達を、みんなよく見に来るよ」
松永さんは気さくに話してくれる。
疑ったあたしを殴りたい。
だって、あの誘拐犯もよく屋敷を見に来ているって言ったから。
でも、松永さんはほんとに、通り掛かりの日本人なんだ。
…日本人…か。
「…奇遇ですよね、日本人がいるなんて」
「あはは、そうかな?この辺は多いよ」
「多い?」
「ああ」
松永さんはにこりとした。
ああ、なんて安心するんだろう。かしこまった言い方しないで、お友達みたいに話してくれる人。
「で、あおいちゃん、立てるかい?」
「…あっ」
そういえば床にぺたりと座り込んだままだ。
…あれ?
力が入らない。
「ちょっと…力が抜けちゃったみたいで…しばらくしたら立て…」
松永さんがあたしに肩をまわし、あっという間にあたしをたさせた。
「あ…ごめんなさい」
ふらりと壁に手をつき、あおいは礼を言った。
また、肩に触れた松永さんの腕の感触にドキドキする。
「大丈夫かい?」
松永さんはまたあたしに近づいた。
「僕が支えるよ」
え?
松永さんは、壁についていたあたしの手を引いた。
咄嗟のことで、あたしはなるがまま、松永さんの胸に倒れ込んだ。
「っ……」
恥ずかしくて離れようとしたが、松永さんはまたあたしを抱き寄せている。
なんなの…これ。
松永さんの胸に顔が埋もれつつ思った。
男の人って、こういうものなの?
こんなに軽く、抱きしめられるの?
心配かけただけで、こんな風になってしまうの?
「もう大丈夫です、松永さん…」
「ほんとに大丈夫かい?君、まだ震えているよ」
耳元で喋られたから、息がかかる。
心臓が収まらない。
高鳴っていく…
聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい。
その時だった。

