悲痛なあたしの声が、誰も居ない廊下中に響き渡る。
それでも、泣き叫ぶあたしを、貞永は決して離さなかった。
「だって、分かってるから」
「え…?」
「佐田とのキスは、事故だって分かってるから。俺が見た時、明らかに佐田はあゆを庇うような体勢だったし、どうせあゆがドジでもかまして、階段からコケたんだろ?」
「ちょ…さだな―――」
「やっと、いつものあゆに戻ったな」
「やっぱりあゆは、口答えするくらいに元気ないとな」という貞永の呟きを聞きながら、あたしの身体は貞永から解放される。
どこまでも優しい貞永に、あたしはもう一度抱き付きたい衝動に駆られた。
「そりゃ明らかに浮気だったら、俺はあゆを一生監禁してやるし、佐田だって原型がなくなるくらいに、顔を殴ってやる」
「それ、犯罪…」
「だけど、今回の事は事故だしな。…誰も責められねぇよ」
いつもの貞永節により、あたしの目に溢れていた涙は、いつの間にか止まっていた。
.

