―――それからの事は、記憶が曖昧だ。
唯一覚えていた事と言えば、あの電話は、あたしと貞永を呼び出す為に掛けられたモノという事くらい。
貞永は何も感じなかったらしく、いつもと変わらぬ様子で、洋画の吹き替えの仕事に旅立って行った。
だけど、あたしの心臓は、ずっと治まる事はなくて。
その事ばかり気に掛けていたあたしは、細かい雑務などでミス連発。
しっかりと切り替えが出来る貞永と違い、あたしはまだまだ未熟みたいだ。
「そろそろ…時間だ…」
集中力がいつもに増して欠けているあたしは、チラッと時計を見る。
今日の仕事が全て終わったら、あたし達はハッピードリームへと赴かなければならない。
その事が、あたしにとっては、何よりも気の重たくなるような事実だった。
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