ゆっくりと。

ハルカが、朝霧が、後ずさりし始める。

「……っ」

俺もまた、何とか立ち上がってこの場から逃げなければならない。

猛獣なんて、弱った獲物から襲ってくるに決まっている。

となると、今の俺なんて恰好の獲物に違いない。

何が悲しくて今年の干支に食われなければならないのか。

痛みを堪えて何とか立ち上がろうとするものの。

「…っ…!」

目の前の視界がグニャリと歪む感覚。

エスカレーターを転げ落ちた時に、頭を強打したせいだろうか。

脳震盪を起こしているのか、一人でまともに立ち上がれそうにない。