「お母さん、これ、
玉葱多くない?」
母親に、ザルに山盛りの玉葱を
不審に思い苦言を告げる。
「いいの。多い方が、
おいしいのよ。」
目元を緩め、笑む彼女に
返す言葉はない。
異常なまでの回数の
瞬きを重ね、
次の玉ねぎを手にとる。
カタン・・・
金属音と共に、
ボールに置かれたナイフ。
そして、目元を手の平で覆う彼
「あら、ジェス?」
優しい声色の母。
ジェイドの合わさった瞼から
涙がポタポタこぼれる。
一言も、彼は、発しない。
「あら、玉ねぎが、
目に染みたのね。」
こんなに、肩を震わせて
涙を零すような強烈な玉ねぎが
あるはずもなくて・・・
母の声と、啜り泣く
ジェイドの声が空間を支配する。
母は、濡れたタオルを
彼の手に握らせて。
「ジェスは、いい子ね。
」
そういって、随分、
背の高い息子・・・を抱きしめ
背を撫でてやっていた。
「いい子ね。ジェスは。
必ず、また帰ってくるのよ。
ディオナみたいに、中々
帰って来ないなんて、
ダメよ。」
そういって。
涙を拭き、母の肩に顔を埋め、
ジェスは、何とも言えぬ
穏やかな表情を浮かべ
頷いていた。