『リンゴ剥きますね‥』

って言っても残念な事に料理は苦手。
カレーとか包丁をあまり使わないものなら出来るけど‥
包丁があまり上手く使えない。

目の前のリンゴがだんだん小さくなっていく。
皮を剥くはずが下手すぎて身まで一緒に減っていく。


『香玲ちゃん、貸して』

弱々しく差し出された手にリンゴを渡すか迷った。
でも、断るのも何か申し訳なくて渡した。

唯さんの器用な手がリンゴの皮を綺麗に剥いていく。


『赤ちゃんね、名前は慶斗(ケイト)にするつもりだったの』

『そうですか‥』

『慶斗が風邪引いたらこんな風にリンゴ剥いてあげたのかな‥
ご飯作ったりお話したり。

まだ夢見てるの

叶うはずないのに』


“叶うはずないのに”
重い声が痛かった。

だからついバカな事を言ってしまった。

『私が死ねば良かったのかな‥
慶斗くんの変わりに私が死ねば

みんな幸せなのに』

唯さんの見開いた目が
私の目に移った。