SAYONARA

「いや、そうじゃなくて」

 彼は頬をほんの少しだけ赤く染め、困ったように笑っていた

 彼の瞳があたしを見る。まっすぐな瞳に射抜かれ、あたしは彼から目が離せないでいた。

「何でもいいから会うきっかけが欲しかった」

 そう言うと、彼は目を背ける。

 自惚れを含んだ飛び出しかけた言葉を呑みこむ。

「まずは友達になりたいなと思った。だからまず携帯を教えてくれると嬉しい。無理にとは言わないから断ってくれてもいいよ」

 今すぐに誰かを好きになることはないだろう。

 だが、彼と友達になりたいかと自身に問えば、その答えは一つしかない。

「いいですよ。また、お店にケーキを食べに行きますね」

 あたしは鞄から携帯を取り出し、微笑んでいた。