だからと言って、そのまま見過ごす訳にはいかない。
僕は自分の銃を光二の側頭部に向けた。
「……止めろ、光二」
けれど光二は陽一に視線を向けようとはせず、床を這う男子をただ見下ろす。
「うぅ」と苦痛を漏らしながら男子は、まるで尺取り虫のように這い光二から逃がれようとしている。
「……撃てよ、陽一。撃てるもんならな」
光二はうっすらと笑ってみせた。その笑みはチェシャ猫を連想させる。
「ちょ、ちょっと御黒井君!?それ私の銃でしょ!?もしそれ撃ったら…」
「死ぬかも、な」
乾いた予知を口にして、そして連なるように『ドォン』と銃声が鳴った。
微かな硝煙の香りが陽一の鼻をくすぐる。
「……頭、狙ったつもりだったんだけどな。とちったな」
光二の弾丸は這う男子の背中を撃ち抜いた。



