「……楽しかったに決まってるだろ」


「……ありがとう」


不意に、唇が熱くなる。


双唇が重ねられたのだ。


瞬間の事で陽一は事態が上手く理解出来ず、なし崩し的にそれを受け入れる。


頭がぼうっとするような、真っ白になるような。


とにかく何も考えられない。


チロリと望美の舌が侵入する。かき混ぜられる唾液。絡み合う舌。混ざり合う熱。


一体どの位唇を重ねていたのだろう。


数分か、はたまた数秒か。


どちらにせよそれはあまりに長く、永遠に続くものかと錯覚させた。


離れたのはどちらからとも言えない。


気が付けば互いの唇は離別を果たしていた。


陽一は貪るように鼻から口から酸素を吸い込む。





刹那、引き金に置いた指に誰かの指が重なった。




唾液にまみれた望美の口が僅かに動く。


「陽一ありがとう。それからーー」


ごめんね。


と。












銃声が響く。


銃口は、望美を向いたまま。



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