店内は海になった。 私の目の前やあちらこちらに小さな魚が泳いでいて口をぱくぱく開いている。 シモン様の長い髪もお兄様の帽子も波にゆらゆらと揺らいでいる。 けれども不思議なことに水の抵抗を感じる事もないし、呼吸もちっとも苦しくなかった。 どういった現象なのかしら? 「おいで」 戸惑う私にお兄様が手を差し伸べてくださる。 「怖い?」 聞かれてゆっくりと首を横に振る。 私の髪もまた波に揺らいだ。 「景色にまだ慣れないだけ…… でもとても幻想的で素敵だわ」