アリスズ


 さっきまでの威勢はチリと消え、景子はその場にへなへなと座り込んだ。

 そ、そんな。

 ほっぺたが、ジンジンする。

 予想外に強くつねっていたようだ。

 しかし、その痛みを感じれば感じるほど、ここが現実だと思い知るだけで。

「菊…」

 梅が自分の姉妹を呼び、空を指す。

 茫然しながらも、景子もそれにつられていた。

 満点の星空。

 田舎、というだけでは済ませられない星の海。

 違う。

 それくらい、彼女にも分かった。

 そこにあるのは、景子の知る空ではなかったのだ。

 浮かんでいるのは黒い月。

 新月とは違う、黒々とした月だった。

 その黒で際立つように、星々が光るのだ。

 そして空には──オリオン座もカシオペア座も、北斗七星もなかった。

 第一。

 寒くない。

 涼しくはあるが、あの花屋にいた時と、気温が明らかに違うのだ。

 だからといって、夏の星座が空にあるわけでもなかったのだが。

「まさか…」

 これが夢でないというのなら。

 景子の頭に、最悪の事態が浮かぶ。

 その声に引っ張られるように、姉妹が彼女を見つめてくる。

「まさか…私たち…地震で死んじゃった、とかじゃないよね」

 それなら、ここは差し詰め死後の世界。

 誰もが想像でしか知らない、三途の川の別形態なのかも。

 景子の意見に、二人は一瞬長物に視線を落とした。

 そして、菊は草の葉の遠い向こうを、すぅっと見やる。

「ここが死後の世界というのなら…」

 布を閉ざしている紐を、彼女はゆっくりと解き始めた。

「やってくるのは…閻魔か鬼か」

 草原の光の彼方に──別の光が混じっていた。