町、というよりは村だった。

 いかにも農村らしい、平野に広がる穀物畑を、菊は目を細めて眺める。

 日本で知っている風景とは、少し違うが、これもまた風情があった。

 景子も、畑をじっと見ている。

 彼女は、花屋だった。

 言葉を覚えるのも、植物が優先だったほど、彼女は人より遠いその生き物を愛しているようだ。

 だが、その目が少し曇った。

 首を傾げている。

 そして。

 おもむろに。

 畑の側に、はいつくばるのである。

 何をしているのかと思ったが、問うだけ野暮だとすぐに分かった。

 彼女は、畑の作物をじっと見ているのだ。

 上っ面だけではなく、それこそ根元の根元まで。

 その上、畑の土に手を突っ込み出す。

 何かが、気になるようだ。

 長くなるかな。

 菊は、あきらめてその辺で休んでいようかと思った。

 が。

「何してる!」

 村の方から、中年の女性が飛んできた。

 この畑の持ち主だろうか。

 怒鳴り声に気づいたのか、景子が地面からぴょこっと頭を上げる。

「大変!」

 景子は、即座に現地語でわめいた。

 そして、飛んでくるおばさんに、逆に自ら飛び込んで行ったのだ。

「大変! 土! 土!」

 彼女は、飛び込まれて面食らうおばさんを、畑へと強引に引っ張った。

 さっきまでしていたように、またも景子は地面に這いつくばり、泥をすくい上げる。

「小さい…虫…土の中…危険」

 一生懸命、たどたどしい言葉で何かを伝えようとしている。

「何か問題でも?」

 もどかしがっている景子のガスを抜くために、菊は日本語で聞いてみた。

「土が弱って、この植物も弱りかけてるの…多分、連作障害」

 連作障害。

 菊の知識にはない言葉だ。

 だが、景子にとっては、この畑の様子は人事には思えないようだった。