ずれたのは、メガネだけではなかった。

 身体が、激しく上下に揺れる。

 じ、地震!?

 声に出せないほど、景子はその場で跳ねさせられた。

 必死でメガネが飛んでいかないよう、両手でおさえる。

 店の中の、花やガラスやバケツも跳ねまわる。

 ガシャンガシャンと、ガラスの割れる激しい音が響き渡った。

「梅!」

 その大きな声に、景子ははっと目の前に焦点を合わせる。

 桜の苗を抱いたまま、着物の身体が崩れ落ちようとしているのだ。

 あわわわ!

 パニックになったまま、景子は両手を伸ばした。

 メガネが、顔の上で激しく踊るのも構わず、とにかく梅の身体を捕まえようとしたのだ。

 同じことをしようとした人が、もう一人。

 菊だ。

 両手に長物を持ったまま、彼女は梅を受けとめようとしたのだ。

 ドンガラガシャンドガンバンバン!

「………!!」

 激しい音と衝撃と痛みと、そして自分がわめくキンキン声。

 何を叫んだのか、自分でも覚えていないほど。

 しかし、この空間で、声を出しているのは彼女だけだ。

 菊も梅も、悲鳴ひとつあげない。

 だからこそ余計に景子は、わめきちらした。

 恐怖を紛らわす方法など、他に彼女は知らなかったのだから。

 最後に覚えているのは。

 光。

 菊の握っている布から、溢れだした光。

 それが何なのか。

 理解するより先に。

 景子の視界は、まっくらになってしまった。