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菊の姉妹は、この一カ月、馬車馬のように働いていた。
仕事をしつつ、子育てをしつつ、彼女の結婚式の取り仕切りをすべて行ったのだ。
特に、結婚衣装を仕立てることにかけては、文字通り命をかけたのではないかと思うほど。
そこまでしなくていいと言った言葉に、耳を貸すこともなく。
『日本人としてお嫁に行くのだから』と、遅くまでずっと縫っていた。
挙句。
綿帽子に足袋まで作っていたのだ。
これを着るのか被るのかと、菊はため息をついた。
だが、梅がまるでここにいない母親の代わりをしようとしているように見えて。
一生に一度くらい、見世物になるかと諦めにも似た覚悟を決めたのだった。
そして、当日。
エンチェルクとシェローの母親が、客に出す料理をこしらえている近くで、梅は姉妹の短めの髪と格闘し、化粧を施し、そして着付けを始める。
覗こうとしたマリスは、早々にエンチェルクに蹴り出されたようだった。
綿が入っているせいで暑くて重い打掛まで着せられ、白無垢もどきが、完成した。
梅自身も、てきぱきと自分の着付けを行う。
「さあ、みなさんお待ちかねよ」
草履は、日本から履いてきたものだ。
ただし、鼻緒は綺麗な布にすげかえられていた。
至れり尽くせり。
ため息をつきながら、菊は梅に手を取られて歩く。
裾を引きずらないように持ち上げながら、ぽっくりぽっくりと。
こんな婚礼衣装を、この国の人は見たことがないはずだ。
さぞや、驚くだろう。
きっと、ダイも驚くな。
そう思うと、少しだけ菊は楽しくなった。
道場には、意外と人が入っていた。
門下生だけかと思っていたら、余計な人間も多く来ているようだ。
みなが、自分を見ている。
異国の真っ白な婚礼衣装は、珍しいのだろう。
そして。
ダイも。
この衣装を着る人間が、誰なのか分からない顔をしていた。
馬鹿。
花嫁は、私しかいないだろう。
やっぱり、菊はおかしくなったのだった。
菊の姉妹は、この一カ月、馬車馬のように働いていた。
仕事をしつつ、子育てをしつつ、彼女の結婚式の取り仕切りをすべて行ったのだ。
特に、結婚衣装を仕立てることにかけては、文字通り命をかけたのではないかと思うほど。
そこまでしなくていいと言った言葉に、耳を貸すこともなく。
『日本人としてお嫁に行くのだから』と、遅くまでずっと縫っていた。
挙句。
綿帽子に足袋まで作っていたのだ。
これを着るのか被るのかと、菊はため息をついた。
だが、梅がまるでここにいない母親の代わりをしようとしているように見えて。
一生に一度くらい、見世物になるかと諦めにも似た覚悟を決めたのだった。
そして、当日。
エンチェルクとシェローの母親が、客に出す料理をこしらえている近くで、梅は姉妹の短めの髪と格闘し、化粧を施し、そして着付けを始める。
覗こうとしたマリスは、早々にエンチェルクに蹴り出されたようだった。
綿が入っているせいで暑くて重い打掛まで着せられ、白無垢もどきが、完成した。
梅自身も、てきぱきと自分の着付けを行う。
「さあ、みなさんお待ちかねよ」
草履は、日本から履いてきたものだ。
ただし、鼻緒は綺麗な布にすげかえられていた。
至れり尽くせり。
ため息をつきながら、菊は梅に手を取られて歩く。
裾を引きずらないように持ち上げながら、ぽっくりぽっくりと。
こんな婚礼衣装を、この国の人は見たことがないはずだ。
さぞや、驚くだろう。
きっと、ダイも驚くな。
そう思うと、少しだけ菊は楽しくなった。
道場には、意外と人が入っていた。
門下生だけかと思っていたら、余計な人間も多く来ているようだ。
みなが、自分を見ている。
異国の真っ白な婚礼衣装は、珍しいのだろう。
そして。
ダイも。
この衣装を着る人間が、誰なのか分からない顔をしていた。
馬鹿。
花嫁は、私しかいないだろう。
やっぱり、菊はおかしくなったのだった。


