アリスズ

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 道場で、ダイは待っていた。

 きちんとした服と言っても、仕事で着る近衛の礼服しかない。

 ごてごてとした、近衛隊長の礼服を着たいわけではないのだが、他にないから文句も言えず、ダイはただ座っているしかできない。

 周囲にいるのは、自分の部下や門下生。

 シェローやその母親も来ている。

 母親は、式の手伝いをするということで、裏の家の方へ行ってしまっているが。

 それ以外に、どういう客が来るかなど、ダイは知らなかった。

 堅苦しいものにはしないと、ウメが約束してくれていたので、それを信じるしかなかった。

「お、お邪魔します…」

 そぉっと。

 そんな道場に、新たな客が現れる。

 赤ん坊を抱いた女性だ。

「ケーコ!」

 シェローが、立ち上がって飛びついて行く。

 まあ、東翼妃が来るのは、一応ダイも想像はしていた。

 キクの数少ない同郷なのだから。

 しかし。

「邪魔するよ」

 東翼の御方まで、赤ん坊を抱いて現れるとは、さすがに想像できなかった。

 瞬間。

 客として来ていた近衛の兵たちが、反射的に臣下の礼を取ろうとするのを、彼は手で止める。

 宮殿の警護にあたる連中だけに、一目で誰か分かったのだ。

「ここは、偉い人間は来てはいけないらしいからね。ケイコの夫として来ただけだよ」

 その腕にいるのは、兄若宮だった。

 東翼妃の腕には、弟若宮。

「わーい、ハレとテルだー」

 二人の身分を知らないシェローが、二人の赤ん坊に構いだす。

 床に降りた弟若宮は、よちよちと歩く。

 シェローが、楽しげにそんな赤子を抱き上げる。

「コホン…入ってもいいか」

 またも、近衛の兵士に戦慄が走る客が現れた。

 東翼長だ。

「礼を欠くことを気になさらなければ、どうぞ」

 ダイは、苦笑しながらそう語りかけた。

「礼を欠かなかったことの方が少ないだろう。今更だ、まったく」

 ぶつぶつと呟きながらも、彼もまたこの空間へと入ってきたのだった。