アリスズ

×
「式は挙げないのか?」

 東翼の御方に突然、そんなことを言われて、ダイは驚いた。

 正式に報告はしていないのに、既に彼が知っていたからだ。

 おそらく、リサーだろう。

 しかし、別段責める口調でも何でもない。

 それどころか、結婚を後押しする言葉でもあった。

 式。

 ダイは、言葉に困った。

 結婚を申し込みはしたものの、戸籍上のことが出来るわけでもないし、式なるものをどうやって挙げるかも、よく分からなかったのだ。

 彼の生まれた村には神殿はなく、村長を立会人にした式は何度か見たことがあったが。

「近衛隊長の式なのだ。本来ならば、軍令府の府長級が立会人をやってもおかしくはないし、神殿を使って神式を取ることもできる…何なら、私が立会人をやってもいい」

 一番最後に、何気なく並べられたものが、一番とんでもなかった。

「あまり仰々しいものは…苦手でして」

 それらを、穏やかに差し戻すための言葉を、何とか吐き出す。

 きっと、キクも望まないだろう。

 そんなダイの態度に、彼は穏やかに微笑んで。

「ならば…あの二人にこの国の戸籍を作る…それでは、どうか?」

 あの二人。

 結婚話は、ふわりと違うところへと着地した。

 キクとウメを、この国の人間としてはどうかと言っているのだ。

 ああ。

 少しだけ、この御方の心が見えた気がした。

 その心のどこかに、不安があるのだ。

 東翼妃とした今でも、彼女がいつかいなくなってしまうのでは、と。

 その、東翼妃と同じ境遇の女を、妻にしようというのだ。

 戸籍を作ることが、キクがこの国に一生留まる材料のひとつになればと考えてくれたのだろうか。

「お心遣い、痛み入ります」

 二人に、聞かなければならない。

 この国の人間に、なる気があるかどうか。

 何故だろう。

 ウメが頷く姿だけは、すぐに想像が出来た。