アリスズ


 時は、満ちる。

 それは、19日だった。

 不吉な不吉な、19日。

 エンチェルクは、町を走っていた。

 通りは、おそろしいほどひっそりしていて、ここが都かどうか心配になるほど。

 しかし、産婆だけはこの日も働いてくれる。

 産まれる子供は、日を選べないからだ。

 よりにもよって、こんな日に。

 エンチェルクは、泣きたかった。

 19日生まれの子は、早死にするとか、出世しないとか。

 そんな迷信は、この世界にはごろごろしている。

 まるで、ウメが祝福されない子供を産むかのように思えたのだ。

 そんなことない。

 産婆を急かそうとしても、彼女はゆっくりゆっくり歩く。

「大丈夫、大丈夫」

 気が気でないエンチェルクを、彼女は朗らかに諌める。

「さっき陣痛が始まったなら、まだまだ大丈夫。19日の子は、ほとんど夜に産まれるからね」

 高い位置にあるお日様を指しながら、悠長なことを言ってくれるのだ。

 夜まで。

 ぞっとした。

 夜まで、ずっとウメは苦しむというのか。

 あの細い身体で、弱い身体で。

「も、もっと早く産まれませんか?」

 怖くてたまらなくなってきて、エンチェルクは思わず聞いてしまった。

「それは、無理な話だね。赤ん坊は、太陽の御方にだって早く産ませられないよ」

 そう笑われても、彼女は肩の力を抜けない。

 ああ、どうしようどうしよう。

 わきあがる不安を止められないまま、エンチェルクは歩くしか出来ない。

「おや」

 産婆が、ふと視線を上げた。

 エンチェルクもまた、引っ張られるように視線を上げる。

 歌が──聞こえたのだ。