アリスズ


「本当に!?」

 ケイコは、とても喜んだ。

 彼女の部屋。

 そこを訪ねたアディマが、リサーを苦しめた話をしてやったのだ。

「そっかあ。菊さん、そうだったんだあ」

 仲良かったよね。

 にこにこと、満面の笑みを浮かべながら、彼女の唇も軽い。

 ウメもキクも宮殿に来にくくなり、ケイコは最近寂しそうだった。

 ウメの取り仕切った飛脚の開業日、お忍びで様子を見に行ったようだが、残念ながら二人には会えないほどの人出だったらしい。

 護衛が、さすがに東翼妃の安全が確保できないと、早々に宮殿に戻したと聞いていた。

 ケイコは、いまもちょくちょく外へ出る。

 とは言っても、さすがに前ほど畑には行けない。

 主に、農林府と宮殿の行き来だ。

 ケイコの意向で、東翼妃ということは伏せている。

 正式な役人ではなく、相談役という肩書にして、少人数の部署にのみ出入りさせるようにしたのだ。

 だが。

 ケイコは、農林府の証しであるスカーフを、ことのほか気に入っているようで。

 それだけは、必ず結んでいく。

 本来なら、こんなところでアディマの妻になっているような女ではない。

 土に触れられるところで生きることが、きっと彼女にとっては幸せなのだ。

 だから、アディマはそれを忘れてはならない。

 もし、この宮殿が彼女にとってつらい空間になれば、ここを出て行くことを考えるかもしれないのだ。

 妻に逃げられたイデアメリトス。

 賢者予定者に逃げられたイデアメリトスよりも、遥かに上を行く醜聞だろう。

 しかし。

 そんな醜聞よりも、アディマは彼女を側にずっと置いておきたかった。

 目の前で、ダイとキクのことをひどく喜んでいる妻に、彼はゆっくりと手を伸ばす。

 ケイコは、それに気づいて動きを止める。

 硝子ごしの瞳が、そぉっと自分を見る。

 微笑んで、彼女を優しくかき抱く。

「今宵は、泊めておくれ」

 その髪に囁いたら──小さく頷いてくれた。