アリスズ

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 キクが──いた。

 ダイの住む官舎の前に。

 辺りが、かなり暗くなりかけている中、彼女は立っていたのだ。

 いろんな意味で、驚いた。

 いままで、彼女が自分をこんな形で待っていたことなど、なかったからだ。

「いざ、会おうと思うと難しいものだな」

 彼の視線に、キクは苦笑した。

「確実にダイに会うには、ここくらいしか思いつかなかった」

 前の彼女であれば、宮殿に来たかもしれない。

 だが、いまそれはすべきではないと、キクも考えたのだろう。

 現在、ウメは身重で。

 以前、彼女を傷つけたことのある宮殿に関わって、寝た子を起こすと、ウメの身が危なくなる可能性があるのだ。

 普段、とても身軽なキクが、いまは荷物を抱えている。

 その感覚に、彼女は慣れないでいる。

 持たない選択も、キクには出来たはず。

 だが。

 持つと決めたのだ。

 軽やかに飛ぶこととやめ、彼女はいま両足を踏みしめて、その場に立ち続ける。

「何か、用か?」

 そんなキクが、わざわざ自分を訪ねてくる意味を、ダイは考えていた。

 トーが、都に戻ってきているという情報は入っている。

 おそらく、ウメを助けていることだろう。

 それ以外の用とは、一体なんだろうか。

 何も、思いつきはしなかった。

「会いに来た」

 キクは、にこりと笑う。

「……?」

 だから、用事は何だとダイは視線を返す。

「お前に会いに来た…それが用事だ」

 イデアメリトスの近衛隊長は。

 しばしの間、その言葉の意味を理解できなかった。