アリスズ

×
 ダイは、困っていた。

 さっさと結婚したリサーが、今度はダイに結婚相手を世話しようとするのだ。

 これまで、遠巻きに何度か貴族からの申し入れはあったのだが、幸い、さして強引ではなかった。

 だが、リサーは違う。

 本人も東翼長であるし、父親も府長という折り紙つきの上級貴族だ。

 現時点の力関係で言えば、ダイに断る権利など最初からない。

 ただ。

 完全に、劣勢だったわけではない。

 もし、申し出を断ったとしても、リサーがダイを失職させたり、左遷させたりは出来ない、ということだ。

 彼は、よほどの不祥事を起こさない限り、現職から下がることはない。

 いまのダイは。

 あの御方の旅を、成功させたという栄誉に守られている。

 それを全面的に良しと思っているわけではないが、ここにいる以上は、必要なのもまた確かだった。

「私の従姉妹の娘だ。親の身分で言えば、中級の貴族だ」

 わざわざ、近衛隊長の執務室までやってきて、リサーは彼に縁談を突き出す。

 中級の貴族の娘を嫁にもらえることなど、お前にとっては栄華なのだと言わんばかりだ。

「お前も、急がねばならんのだ」

 そして、リサーの政治談議が始まる。

 要するに。

 二人の若宮の、脇を固める子が必要なのだと。

 そのためには、それなりの身分の後ろ盾がいる。

 お前は賢者になるが、貴族ではない。

 お前の子に、身分が引き継がれることはない。

 だから、貴族の妻が必要なのだ。

 くどくどくどくどくどくど。

 ダイの耳を、右から左へリサーの声が抜けて行く。

 元々。

 ダイは、何も持っていなかった。

 そんな自分に、どうして彼はたくさんのものを持たせようとするのか。

 既に、この地位だけでも大荷物だというのに。

 ダイは、今日もまたリサーの説教を受け流す気だった。

 なのに。

「まさか…お前まで、異国の女と子を成すわけではないだろうな?」

 それは──釘だった。

 大きな大きな釘。

 ダイを、決してそっちの方向に行かせまいとする、リサーの強烈な一撃だった。