アリスズ

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『その話』をリサーから聞いた時、ようやくダイは理解した。

 何故、キクが1年──トーを都にとどめたがったのか。

「まったく、あの者たちは何を考えているのだろうな」

 リサーは、不道徳だとでも言わんばかりにため息をつく。

 ウメが。

 キクの姉妹が、子を宿したというのだ。

 郷里に帰ってしまった、あの領主の息子の。

 リサーは、ウメの側に甥を送り込んでいて、私的な情報も彼の耳に届いているようだった。

 ああ、そうか。

 キクは、全てを説明する人間ではないので、彼女から得ていた情報は断片的なものばかり。

 だから、アルテンという男はキクに頼み込み。

 だから、キクはあの夜、酔ったのだ。

 トーは。

 あの問題の男は、前にあの御方の叔母上の身体を見立て、目覚めなかったウメを起こしたという。

 そんなトーがいれば、身体の弱いウメがより安全に出産できる。

 そう、キクは思ったのだ。

 自身の生死には、そこまで考えることのない彼女が、姉妹の命を惜しいと感じたのか。

 それに、ようやくダイは気づくことが出来た。

 トーは、隣領に既に移動している、と情報は得ていた。

 婚姻の儀が終わって、またどこへとなり、歌いながら移動していくのだろう。

 ダイは。

 自分の執務室に戻り、側仕えに文をしたためさせた。

 キクの門下生である部下の一人に、それを持たせる。

 部下は、馬を走らせ隣領へ行く。

 もし、まだそこにあの白い髪の男がいれば、その文を目にするだろう。

 そうでなければ、運がなかった。

 ダイに出来るのは、それが精一杯。


 文に書かれたものとは。

『姉妹に会われたし』

 ただの、これだけ。