アリスズ


 10日ほど、祭は続いた。

 祭りの間中、トーの歌が響き渡り続ける。

 人々は、そのおかげで、たくさんの新しい歌を覚えた。

 祝福の歌ならば、多くの人々がそらで歌えるほどになったのだ。

 そして──祭は終わった。

 梅は、すっかり体力を回復した。

 しっかり、食べなければならないし、眠らなければならない。

 前より少しだけポンコツでなくなった肺と仲良くしつつ、前よりももっと強い身体が必要になったのだ。

 彼女を突き落とした老女については、ダイに任せた。

 いま、梅はそれどころではないのだ。

「ウメは変わったな」

 ヤイクに、そう言われた。

「貪欲に生きることにしたの」

 リクに渡す書類を書きながら、梅はさらっと答える。

 ついに、飛脚問屋を開設するのだ。

 最初は主要路のみだが、軌道に乗れば広げてゆける。

 道という血管に、情報という血を流すのだ。

 ウメと彼は、この目的のために動いていた。

 飛脚問屋を、商売のついでに引き受けてくれる商人を、リクが見つけてきてくれたのだ。

 その証書が、先日アルテン経由で届けられたのである。

「昨日…あの女と、別の荷馬車で帰っただろう?」

 書類を向いていた梅は、そんなヤイクの質問に、一瞬だけ手を止めた。

 あの女とは、エンチェルクの事だろう。

 いまは、遣いに出ていて、ここにはいない。

「ええ」

 再び、手を動かす。

「朝…別の荷馬車で来ただろう?」

「ええ」

「どっかの領主の息子と一緒に宮殿に来るのが、ウメの言う貪欲に生きることか?」

 ヤイクは、まだ子供だ。

 しかし、いつまでも子供ではない。

 すぐに、全てを理解する年になってゆくのだ。

 梅は、顔を上げてヤイクを見た。

「ええ、そうよ」

 きっぱりと、梅は少年に向けて言い放ったのだった。