アリスズ


 一世一代の大バクチ。

 命がけのバクチに、梅は勝つつもりだった。

 子供も産み、自分も生き残る。

 だが、誰の子でもいいワケではない。

 そんな、梅の頭の中に浮かんだ男は──二人。

 同時に、二人を思い浮かべることは、とても彼らに失礼だとは分かっている。

 だが、梅は己を恋愛の渦中に置くことから、ずっと遠ざけてきた。

 恋愛の先にあるものを、自分は手に入れることは出来ないのだと、そう思っていたからだ。

 だから、その部分の感性は、彼女の肺と同じように、ぶ厚く鈍くなってしまっていた。

 そんな恋愛音痴の袋をひっくり返して出てきたのは、たったの二人きり。

 これまでの梅の人生の中で、思い当たる人がそれだけしかいなかったのである。

 その一人が、アルテンだった。

 彼は、そう遠くなく、自領に帰らなければならない。

 そして、彼は彼の責務として、身分の釣り合う女性と結婚し、子供を作らなければならなかった。

 更に言えば。

 もはや、彼は都に来ることは、ないだろう。

 アルテンの父親は、既にいい年だ。

 彼は、自領を継がねばならなくなる。

 おそらく二度と。

 二度と、アルテンと会うことはない。

 それを分かった上で、梅は彼に言ったのだ。

「アルテンリュミッテリオ…私に子供を授けて欲しいの」

 梅の唇に、異性への愛の言葉がのったことはなかった。

 そういう意味では、これは彼女にとっての、精いっぱいの愛の言葉だったのだ。

 長い間、アルテンは動けずにいるようだった。

 菊は、愉快でたまらないように笑っている。

 アルテンは。

 苦しそうに瞳を伏せた。

 そして。

 こう言ったのだ。

「何故ウメは…その結末を選ぶんだ…」

 祝福の歌は──途切れる兆しはなかった。