アリスズ


 すっかりやせ細ってしまったが、ウメは穏やかな表情を浮かべていた。

 自分が、殺されかけたという過去さえ感じないほど、彼女は微笑んでいるのだ。

「ご心配をおかけしました」

 そして、アルテンにお礼の言葉を述べるのだ。

 ああ。

 彼らとの付き合いで、一番自分の中に取り入れづらかったのが、この距離のある言葉。

 彼らは、どうしてこう冷静であろうとするのか。

 心配をかけたことを、悪いことのように思うのか。

 心配は、とてもとてもした。

 勿論だ。

 このまま、ウメが目覚めないのではないだろうか──そこまで考えもしたし、それにまつわる暗い想像もした。

 キクとの旅で、精神的に鍛えられていなければ、とっくに癇癪は爆発していただろう。

 まだ、アルテンは達観まで至っていない。

 そこが、キクに言わせると未熟なところなのだ。

「その封は…」

 アルテンが、うまく彼女に声もかけられないでいると、先に荷物に目をつけられた。

「リクパッシェルイルが来たのですね」

 目が、輝く。

 ついさっきまで、意識が戻らなかった人間の目ではない。

 元々、目の力はあったが、更にそれに輪がかかったように思える。

「血を流す準備が出来たそうだ」

 伝言を口にしながら、アルテンは彼女の枕元へと歩みよった。

 物騒な伝言ではあるが、ウメのことだ。

 戦いを意味していることとは、思えない。

「そう…やっと動き出せるわ」

 細い細い指が、封を重そうに受け取る。

 その重さにさえ、幸福そうだ。

 距離が。

 彼女にとっての距離が、自分とその封で違う気がしてならない。

 アルテンは──結局、自分がひどく未熟者であることを証明してしまった。

 寝台に片手をかけると。

 梅の。

 唇を。

 奪っていたのだ。