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出会った時のことを、思い出す。
異国の人形のような女だと、最初は思った。
だが、その目は黒く爛と光っていて。
そして──アルテンを、ものの見事に拒絶したのだ。
領主の息子に生まれてこの方、彼は誰にも拒絶などされなかった。
遅く出来た跡取りだったおかげで、両親には甘やかされ、使用人もアルテンには逆らえなかったのだ。
いま思い出すと、何と愚かしかったか。
その愚かしい彼を、ウメは世界に放り出したのである。
世界は、アルテンに冷たかった。
知らぬ街の人々は、みな必死に生きていて、無関係な領主の息子だからと言って優しくしてくれることなどなかったのだ。
だが、彼は膝を折らなかった。
自分は領主の息子だと、その事実にしがみつき、冷たい周囲を──冷たいウメを憎んだのである。
そんなアルテンに、キクが膝の折り方を教えてくれた。
彼女もまた膝を折り、この国の言葉をアルテンに習った。
キクが、ひとつ言葉を覚えるようになるにつれ、アルテンは彼女を通してウメという人間を知っていったのだ。
そして、ついにウメと再会を果たした。
もはや、人形には見えなかった。
なのに。
なのに、彼女はまた人形になってしまったのだ。
ただ、眠るだけの。
その事実に、アルテンはひどく胸を痛めた。
痛める理由など、本当はないのだ。
たとえどれほど、自分がウメを想ったとしても、その思いに出口があるようには思えなかった。
それならば、いっそ。
暗い考えが、一瞬アルテンの胸の内側に閃きそうになった時。
彼は、ウメの部屋の前へと、たどり着いていたのだ。
ノッカーを鳴らすまでもなく、開け放たれた扉や窓。
入口近くで、歌を聞いているキクと視線が合った。
「ああ…来たか」
暗い考えを吹き飛ばす、彼女の風。
そんなキクが、微かに首を傾けて室内の方をみやる動きをする。
「さっき、起きたよ」
涼やかな言葉で──キクは、簡単にアルテンに大衝撃を与えたのだった。
出会った時のことを、思い出す。
異国の人形のような女だと、最初は思った。
だが、その目は黒く爛と光っていて。
そして──アルテンを、ものの見事に拒絶したのだ。
領主の息子に生まれてこの方、彼は誰にも拒絶などされなかった。
遅く出来た跡取りだったおかげで、両親には甘やかされ、使用人もアルテンには逆らえなかったのだ。
いま思い出すと、何と愚かしかったか。
その愚かしい彼を、ウメは世界に放り出したのである。
世界は、アルテンに冷たかった。
知らぬ街の人々は、みな必死に生きていて、無関係な領主の息子だからと言って優しくしてくれることなどなかったのだ。
だが、彼は膝を折らなかった。
自分は領主の息子だと、その事実にしがみつき、冷たい周囲を──冷たいウメを憎んだのである。
そんなアルテンに、キクが膝の折り方を教えてくれた。
彼女もまた膝を折り、この国の言葉をアルテンに習った。
キクが、ひとつ言葉を覚えるようになるにつれ、アルテンは彼女を通してウメという人間を知っていったのだ。
そして、ついにウメと再会を果たした。
もはや、人形には見えなかった。
なのに。
なのに、彼女はまた人形になってしまったのだ。
ただ、眠るだけの。
その事実に、アルテンはひどく胸を痛めた。
痛める理由など、本当はないのだ。
たとえどれほど、自分がウメを想ったとしても、その思いに出口があるようには思えなかった。
それならば、いっそ。
暗い考えが、一瞬アルテンの胸の内側に閃きそうになった時。
彼は、ウメの部屋の前へと、たどり着いていたのだ。
ノッカーを鳴らすまでもなく、開け放たれた扉や窓。
入口近くで、歌を聞いているキクと視線が合った。
「ああ…来たか」
暗い考えを吹き飛ばす、彼女の風。
そんなキクが、微かに首を傾けて室内の方をみやる動きをする。
「さっき、起きたよ」
涼やかな言葉で──キクは、簡単にアルテンに大衝撃を与えたのだった。


