アリスズ

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 一体、どれほど打ち合ったか。

 キクが、片手を突き出して来て、戦いを止めた。

「まい…った」

 滝のような汗の中、彼女は笑いながら自分の負けを認めるのだ。

 ああ。

 ダイは、理解した。

 キクの戦い方は、一撃必殺の積み重ねだ。

 長く長く戦い続けることとは違う。

 戦場の兵士とは、質が違うのだ。

 それでも、これほど長くダイと打ち合える部下はいないだろう。

「まだまだだな、私も」 

 心の底から、屈託のない笑顔を浮かべながら、彼女は深々と頭を下げた。

「ありがとうございました!」

 さあっと。

 風が、吹き抜けた――気がした。

 辛いことなど、本当は皆やりたくない。

 苦しい思いなど、したくない。

 兵士も、同じだ。

 だから、人の見ていないところで、手を抜く者もいるし、厳しい上官を恨む者もいる。

 だが、彼女はいま自分の抱えている疲労のすべてを、素晴らしいものだと思っている。

 素晴らしい戦いが出来た相手に、心の底から感謝しているのだ。

 その気持ちが伝わってきて、彼の胸を涼しげな風が打った。

「ありがとう…」

 何かに触れた気がして、ダイもまたそれを口にしていた。

 だが。

 パンパンと、上から拍手が降ってきて、彼は慌てて顔を上げる。

「よい戦いだった」

 そこにいたのは。

 イデアメリトスの君と――太陽だった。

 この国で、一番高貴な親子が、そこに揃っていたのだ。

 イデアメリトスの君は、分かる。

 近衛詰所は、東翼の裏手にあるのだ。

「騒ぎは執務室まで届いたぞ」

 明るいが鋭い言葉に、ダイは膝をついた。

「お騒がせして、申し訳ございません」

 気づけば、下の階には文官たちさえも集まって来ているではないか。

「よいものを見せてもらった。そちらの客人は、楽士殿と一緒にいた者だな」

 太陽の視線が――キクに向いた。