アリスズ

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「頼もうー!」

 そんな言葉をひっさげて、宮殿にやってきたのは、おそらくキクが初めてだろう。

 ダイは、門に呼び出されて驚いたのだ。

 本来、門番は許可のない者は絶対に通さない。

 今回も、勿論通しはしなかった。

 しかし、異国の服を美しく着付け、ばさばさにほったらかしていた髪を整えたキクのたたずまいを、彼らは無下には出来なかったのだ。

 結果。

 近衛隊長を、堂々と呼び出したのである。

「手合わせ願いたい」

 そして、彼女は朗らかに笑うのだ。

 そのために、宮殿までわざわざ来たのだと。

 ダイは、呆れた。

 わざわざ祖国の服を着て、入りにくい宮殿までやってきて、彼と戦いたいと言うのだ。

 だが。

 同時に分かった。

 キクの持つ、あるいはダイの持つ問題が、一応解決した今でなければ、確かに叶わないことだっただろう、と。

 アディマの護衛をしている時のダイは、無駄な戦いなど出来なかった。

 キク側としては、トーがイデアメリトスに認められ、表面上は一段落だ。

 そして彼は。

 キクを、自分の責任で宮殿敷地内に入れることにしたのである。

 近衛の詰所に連れて行き、訓練用の木剣を二本抜いたところで、ふと思ったのだ。

 キクとの戦いを、部下にも見せるのはどうかと。

 ダイは、隊長だ。

 部下を鍛えることも、彼の仕事だった。

 身体を鍛える事、戦い方を覚えること、勇敢さを育てること――良い戦いを見ることもまた、大事なことだ。

 だから、詰所の前で戦うことにした。

 キクは、周囲に人がいようがいまいが気にしないだろう。

 その通りで、木剣を渡された彼女は、部下が何事かと近づいてきたことに意識は向けなかった。

 両手で、木剣の握りと重さを確認するだけ。

「よろしくお願いします」

 凛と。

 キクは、剣を構えた。