アリスズ


「場所を知りたければ、いくらでも語ろう」

 トーの言葉に、何ら迷いなどなかった。

 太陽の罠に、ためらいなく踏みこむのだ。

 だが。

「語り終えたら、私はこの世から消えよう。夜は、放っておいても勝手に愛されてゆく…私は旅でそれを知った。逆に、月の者がいるせいで、まつりごとが夜を憎ませるのだ」

 最初の鞭には、「はい」を。

 次の飴には「いいえ」を。

 トーは、笑みと共に差し出したのである。

 菊は──どれだけ、吹き出したい気分を我慢しなければならなかったか。

 さすがだ、と。

 さすがは、トーだ。

 景子のおなかの子を、彼は見た。

 夜を受け入れる子が、もしかしたら御曹司の次の太陽になるかもしれないのだ。

 そうなれば、少しずつ夜への偏見は変わってくるだろう。

 その未来を、トーはきっと感じたのだ。

 菊は、笑いを我慢したというのに。

 自重しない男がいた。

「あっはっはっはっは! そうか、もはや月の者などいらぬか。貴公も含めて。そうか…そう来たか」

 太陽だった。

 トーの言葉を、本当に愉快そうに笑い飛ばすのだ。

「あい分かった。貴公の身は、イデアメリトスの名において、楽士として預かり受ける。国中、好きなところに行って歌うがいい」

 そして。

 太陽は、太陽としての答えを、月の前に置いたのだ。

 要するに。

 いままで通り、好きなところで歌ってよい、と。

 ただし、この太陽は──トーの背中に『イデアメリトス認可』の札を張り付けたのである。

 トーが何を言わなくても、彼が訪れた町の兵士には通達されるし、そこから町の人に彼が一体何者であるか、勝手に語られるのだ。

 トーは、それを否定して回ったりはしない。

 結果的に、彼は自由でありながらも、イデアメリトスの神官のような扱いになるのだ。

 その上。

 イデアメリトス認可のトーは。

 月の者たちに、放っておかれることはないだろう。

 きっと、全力で彼を殺しに来る。

 裏切り者として。

 ああ、本当に──悪い男だな。

 菊は、この太陽に、ほとほと感心させられる羽目となったのだった。