アリスズ


 月と太陽が対面する場に、菊は立ち会った。

 人々は帰って行ったが、フードの男はまだ壁の側にいるし、それより遠巻きに兵士の気配も複数あった。

 月が昇ろうととする夜。

 こんな、下町の広場の真ん中で。

 イデアメリトスの太陽は、トーの目の前に立つのだ。

「息子から、話は聞いている…長旅御苦労だったな」

 口火を切ったのは、太陽の方。

 余裕のある上から目線の言葉が、なめらかに滑り出す。

「生身で来るとは思わなかった」

 一方。

 月は、うっすらと笑みを浮かべている。

 皮肉ではなく、素直に喜んでいるようにも見えた。

「生身? そうか、そういう知識も、400年たってなお伝承されておるか」

 しぶとい連中だ。

 太陽は、喉の奥を鳴らしながら笑みをこぼす。

「さて、ひとつ貴公に提案がある」

 言葉を返さない月に、太陽はその大きな手を広げて見せる。

 あー。

 菊は、嫌な予感がした。

「月の連中の本拠地の場所は知っているだろう? その場所を教えてもらいたい」

 単刀直入に、太陽は言葉で斬りつけてくる。

「その代わり、貴公のために夜の神殿をこしらえ、その神殿の神官長として夜の名誉回復の権利を与えよう」

 続けられた飴に、菊は笑ってしまいそうになった。

 素晴らしいな、と。

 飴そのものの、内容が素晴らしいのではない。

 飴と鞭の狭間にある、罠が素晴らしいのだ。

 これでは。

 どう答えても、トーは殺されるかもしれないな。

 旧知を売り、名誉を得るか。

 旧知を守り、名誉も蹴るか。

 どちらにせよ、太陽は満足すまい。

 トーは、笑った。

 そして──こう言った。

「場所を知りたければ、いくらでも語ろう」