アリスズ


 その広場に、異質なものが二つ紛れ込んで来た。

 一つは、最初からいた。

 路地の影にいるので、フード姿がほんの少ししか見えていないが、風変わりな気配を持っている。

 狩りをしない時の、動物に似ている気がした。

 ただし、猛禽だ。

 狩りをしないと分かっていても、猛禽に近づこうなどという人間はいない。

 防衛本能で、無意識に皆が避ける。

 だから、こんな初夏のような町で、フード姿であったとしても、誰もその人間を見ようとはしなかった。

 ただ敵意は感じないため、菊は放置しておくことにしたのだ。

 もう一つは。

 歌の途中で現れた。

 日の沈もうとしている薄暗い広場に、確固たる足取りで現れたのは、トーと同じほどの年齢の男。

 ああ、なるほど、太陽。

 菊は、そう理解した。

 褐色の肌に、金褐色の瞳。

 長く編んだ髪を、首に一周巻きつけている。

 兵士も従えず、ただ一人でそこに現れた。

 油断のない、しかし奥行きのある瞳で、歌うトーを見る。

 本当に来るとは。

 菊は、その肝の太さに感心した。

 堂々たる立ち姿。

 戦う者として先頭に立つならば、誰もがその背中を頼もしいものと思い、命を預けるだろう。

 しかし、威厳はあるが、聖人君子ではない。

 御曹司にはまだ足りない、したたかさもそこにはあった。

 彼は、トーの歌を見ている。

 見ながら、考えているのだ。

 トーの首を、胴とつなげておくべきかどうか。

 日が落ちる。

 広場は、夜に染まってゆく。

 それでもなお歌は続き──人々は、帰ろうとはしなかった。