アリスズ


「政治的影響の届かないところ?」

 修理の到着を待つ間、梅はアルテンと話をした。

 疑問に、彼が一部答えられるのではないかと思ったのだ。

 彼女が疑問に思ったのは、あの集団がどこを根城にしているかということ。

 小さく分散して、町に紛れている分には問題がないだろう。

 しかし、彼らには確固たる心のよりどころがある。

 だからこそ、口の中に毒を仕込んでまでも、イデアメリトスに反抗しようとしているのだ。

 ということは、どこかで集落を形成しているはず。

 現体制の、政治力の届かないところで。

「そうだな…砂漠、密林、高山、洞窟…人の行きづらいところであれば、戸籍の管理も税金の取り立てもないだろう」

 一部の少数民族が、そこに住んでいることもあるという。

 人間を養うには、兵糧がいる。

 砂漠や洞窟は、農業に適さないだろうから、密林か高山か──どちらにせよ、人の住みづらい過酷な環境に追いやられているわけだ。

 その過酷な環境さえも、イデアメリトスを憎むための良い材料だろう。

 盗賊以外が、町を襲う話は聞かない。

 襲うのは、イデアメリトスの血筋や政治の関係者、兵士。

 捕虜になる前に自ら死ぬので、どこに所属している反抗組織か分からない。

 これでは、有力な情報を手に入れるまでは、国側も対処療法以外出来ないだろう。

「月の者…というのは、歴史とおとぎ話の中の悪役でしかないから…よく知らないが。もし、いまも生きていて恨んでいるというのなら、相当な執念深さだな…初代様が国を統一したのは、四百年も前だというのに」

 四百年、おおむね泰平であったからこそ、町の人々は明るく働いていられたのだろう。

 明日も家はここにあり、畑はあり、作物は実る。

 それを、すっかり疑っていないのだ。

 こんな状態で、おおっぴらに暴れても、月の者が悪者になってしまうだけ。

 そうね、私なら。

 ふと、梅は考えた。

 四百年反逆し続ける時間があったのならば、政治以外で民衆の心をとりこにしていくことを考えただろう。

 反逆には、とにかく数が必要だ。

 そうね、たとえば宗教。

 菊と同じ結論に達していたことを、この時の梅は知らなかった。