アリスズ


 結局、死体は四つとなった。

 護衛の兵士の死体は、まだそこにある。

 ひざ掛けを広げ、彼の上半身へとかけてあげた。

 残る三つの賊の死体は、アルテンが見えないところに引きずって行ってくれた。

 片方は生きていたが、目を覚ました時、自分が捕縛されていることに気づくや毒死したのだ。

 口の中に、常に毒が仕込まれている──そんな覚悟の中で生きている者たちだったのか。

 エンチェルクは、兵士の死体さえ見られないようだった。

「大丈夫よ、エンチェルク…あの方は私たちを守って亡くなったの…恐れてはかわいそうよ」

 ぜいぜいと嫌な音を立てる自分の呼吸の合間に、なんとか彼女をなだめる。

 祖母が死んだ時のことを、思い出す。

 身内の死は、悲しくはあるが恐ろしくはない。

 この兵士とは、一緒に食事をした。

 無骨な人のようで、余り上手に話は出来ずにいた。

 でも、はにかむような笑顔を持っていた。

 そこに横たわっているのは、見知らぬ死体ではない。

 ご縁のあった方の、一生懸命生きた身体だ。

 梅は、両手を合わせた。

 来世があるのならば。

 この人に来世があるのならば、そこで誰よりも幸せになりますようにと。

 そう願わずにはいられなかったのだ。

 顔を、上げる。

 エンチェルクは、震えがとまったようで、一生懸命兵士の方を見ようとしていた。

「来てくれて、本当にありがとう…命の恩人だわ」

 剣の手入れをしているアルテンへ、ようやく梅は視線を向けた。

 死者との対話の間、彼はまったく邪魔をしないでくれた。

「都まで送ろうと思って、追ってきた。父上も、一生に一度の都詣でに行くなら、今しかないだろうと言ってくれた」

 領主になると、おいそれと出られなくなるという意味で、『今』と言ったのだろう。

「だが…まさか、こんな修羅場に出くわすとはな」

 ただの夜盗ではないな。

 アルテンの言葉に、梅は曖昧に微笑んだ。

 いろいろ話はしたいと思っているのだが──梅の体力と気力の限界は、既に超えている。

 すぅっと。

 目の前が、暗くなった。