アリスズ


 縁が。

 縁が、一つ切れる音がした。

 荷馬車の側。

 街道際の木々の間で、野営をしていた梅たちは──人の手による不幸にさいなまれたのだ。

 三人の男の襲撃に、一緒に食事を取ったあの兵士は、倒れ伏した。

 一人を斬る間に、二人に斬られたのだ。

「なんで兵士が、女を護衛してるんだ?」

 焚火の向こう側から、男が二人近づいてくる。

 血に濡れた剣を、ひっさげた彼らの顔を見た時。

 ただの夜盗とは、思えなかった。

 仲間が一人死んだことよりも、死んだ兵士を足で蹴り、冷たく見下す方を優先したのだ。

「さあな…だが、兵士が守ってんなら、あっち側の人間だろ?」

 二組の凍ったような目が、梅とエンチェルクに向けられる。

 エンチェルクは、震えていた。

 目の前で、兵士が殺されたのだ。

 その上、もはや誰も彼女らを守る者もいない。

「見ろよ、右の女。いまいましいあの連中と同じ人種だぜ」

 剣の先が、エンチェルクを指す。

 彼女は、ますます震えあがった。

 梅は。

 焚火の燃えさしを、一つ拾い上げる。

 彼らの目的は、ただ殺すことに思えた。

 あっち側の人間、とやらを。

 うっすらと理解は出来たが、それはこの場をやり過ごす材料にはなりはしない。

 せめて山本家の娘らしく、戦えるだけ戦おう。

 どうせ自分は、走って逃げることさえできないのだ。

「エンチェルク…お逃げなさい」

 彼女を守りながら、戦えない。

 だから、梅は彼女を逃がそうとしたのだ。

 だが、震える指で梅の服をぎゅっと握りながら、首を横に振るではないか。

 出来ませんと、恐怖をいっぱいにためた目で訴える。

 困った子だ。

 梅は、それに目を伏せて。

「じゃあ…一緒に死にましょうか」

 生き残るアテはない。

 だが、彼女は──燃えさしを片手で下段に構えた。